2021年7月20日に実施したMSOL×株式会社こころみ共催セミナー『ディープリスニングのご紹介 DX推進の第一歩』の内容をレポートとして公開します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が将来の企業競争力を確保するために重要であるとの認識がある一方、現実的にはなかなか成果を挙げられない、正直何をどう進めていいのか困っているという声をよく聞きます。そこで今回のウェビナーでは、DX推進の要点と、DX推進のポイントとして、足かせのひとつとなる業務の可視化をどのように進めればうまくいくのかについて解説します。
マネジメントソリューションズDigital事業部ディレクターの阪本幸誠がDXの必要性と要点を、そして、コミュニケーション支援を専門とする株式会社こころみ社長の神山晃男氏がDX推進のための現状把握・課題整理に必要なインタビューの方法論「ディープリスニング」を紹介します。
DXの必要性と要点
現在、AI、IoT、クラウド、5Gなどデジタル化が進歩していく中で、企業がDXを推進する環境が整いつつあります。コロナ禍によるテレワークの普及でニューノーマル時代が到来する一方、スマホなどのスマートデバイスから様々な情報が収集できるようになり、生活者の環境も仕事をする環境も大きく変化しています。いわば、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを分析する環境変化がDX推進の機会を拡大させているのです。
こうした中、事業の価値を高め、事業継続性の高い企業になるためには、人材の育成力・活用力、DX構想力・活用力、イノベーション創出力を高め、競争上の優位性を確立することが必要となります。
実際、世界のDigital native企業では、DXが常態化しています。とくにグーグル、アップル、フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)、アマゾン、マイクロソフトの「GAFAM」と呼ばれる企業群の時価総額は2020年5月時点で560兆円。この金額は東証1部約2170社の時価総額の合計を上回るものになります。
しかし、多くの日本企業ではDXを推進するうえで、成果を挙げづらい現状にあります。その主な課題となっているのが、「組織横断的な推進力不足」と「部署単位でサイロ化されたITシステム」です。こうした中で、必要になっているのがプロジェクトマネジメント(PM)の手法であり、それらを駆使できる人材なのです。
今回、紹介する「ディープリスニング」は業務を変革し、DXを推進するための土台となるものです。ディープリスニングを行うことで、「個々人の課題の可視化」「組織へのフィードバック」「課題への共通認識」「課題の解決優先順位付け(緊急度・重要度)」といったことが可能となり、結果としてDXが個別対応や部分連携で終わらず、全体連携の懸け橋となってくれるのです。
DX着手初期における情報収集の必要性
DXを推進するうえで、最初に必要になってくるのが業務プロセスの可視化です。可視化のためには、現場の情報収集が必要不可欠となります。ただ、可視化といっても多くの課題があり、まとめると3つの課題に集約されます。まず1つ目が、現場の抵抗に遭うことです。具体的にはDXへの無関心、インタビューへの抵抗、消極的な参加などが挙げられます。こうした態度を改めてもらうためには互いの信頼関係を構築することが必須となってきます。
2つ目は、アンケートやインタビューなどの情報収集作業に応じてもらう際、言語化、特に文字化することは難しいということです。例えば、3分間で「最近後悔したこと」を書いてくださいという場合と、同じく「最近後悔したこと」を話してくださいという場合を比較すると、どちらのアウトプットが多くなるか。実際やってみると、書いたものよりも話したもののほうが、情報量が多いうえ、より主観的で感情の入った情報を得ることができます。人は書くより話すほうが得意なのです。つまり、「言語化をサポートする」ことが重要になってくるのです。
3つ目として、可視化は最も後回しにされる宿題だということです。業務プロセス可視化は、担当部門においては典型的な「重要だが緊急ではない」業務です。真面目で能力のある社員ほど、後回しにする傾向があるのです。こうした状況を改善していくためにも、プロジェクト化し、締め切りを設定することが大事になってくるのです。
課題の本質を引き出す「ディープリスニング」の考え方
こうした情報収集の課題は、結局のところ、コミュニケーションの力によってしか解決できません。そのとき重要な解決手段となるのが「ディープリスニング」なのです。では、具体的な手法について紹介していきましょう。
ディープリスニングとは信頼関係を軸にしたコミュニケーションの方法論です。基本的な心構えとして3つの条件があります。「関心」「共感」「受容」です。つまり、インタビューをするうえで聴いている、理解しようとしていることを言葉と音声で伝える。あるいは音声表現、あいづち、繰り返し(オウム返し/要約)、質問などを注意して行うことが大切になってくるのです。こうした心構えをもったうえで、インタビューで欠かせないのは聞き上手で理解力があることです。
聞き上手であるとはどういうことか。聞く力のある人は、話し手と信頼関係を構築し、話し手の情緒が安定するようコミュニケーションの仕方を工夫することで、話しやすくなる雰囲気をつくり出し、情報を網羅的・中立的に収集できるようになります。次に、理解力が高いとはどういうことか。理解力の高い人は、話し手の客観的状況や意味あいを正確に把握することができ、心情的な理解を正確に行うことができます。自分の話していることが相手に伝わっているのを実感できると、話し手も信頼をもって話を続けることができます。
いわば、「聞き上手」と「理解力」を駆使することで、現場担当者との信頼関係をつくり、必要な情報を聞き出すことで、現状の課題を共有することが容易となるのです。
業務プロセスや課題を可視化するための方法論
このディープリスニングによるインタビューを行っていくには、最終的なアウトプットを見据えて、計画策定から一気通貫した実施が不可欠となります。そのためにもインタビューフォーマット、質問項目および実施要綱の整備など事前の準備が大事になります。また、実施にあたっては、適切なインタビューを行うだけでなく、インタビュー後のフォローアップをする必要があります。インタビューを具体的に進めていくに際し、話し手の感情に寄り添ったインタビューを行うには、お互いの信頼関係を踏まえて一貫した態度で話を聞くようにします。そのためにも、心理的安全をつくり、この場では何をしゃべっても許されることを受け入れてもらい、この人は自分を守ってくれると、踏み込んだ内容も安心して話題にして出せるよう言葉にして伝えます。
相手の話に流れをゆだねることも欠かせません。相手がしゃべりたいことをしゃべり始めたら、止めないことを心掛けてください。もし自分が聞きたいことが出てきた場合は、相手の話が止まったときに聞くようにしましょう。もし聞き漏らしがある場合は、インタビュー後に行いましょう。その場で、そつなくすべての項目を聞くことが目的ではないのです。質問の際には、相手の話している内容に共感し、理解を示したうえで質問を投げかけ、また出てきた言葉から結論を一緒につくり上げるようにします。
話し手との信頼関係を維持する方法のひとつとして、出てくる事実にネガティブに反応しないことも大事です。課題や問題点が出てきたとしても、改善や評価は次のステップまで取っておいて、話し手の仕事ぶりを尊敬するように努めてください。最後に、インタビューに応じてもらえたことを感謝し、インタビュー結果を業務改善などに活かしていくことを伝えることが必須となります。
インタビュー内容をメモしてまとめながら話を進める場合、きれいに表にまとめ、美しく作成することには力を入れないでください。話し手が一番気にしていることや表に入りきらないことを受け止めることに最大の価値があるのです。この点を決して忘れないでください。
MSOLのこころみでは、今回ご紹介したディープリスニングを含め、DX推進に向けた様々な支援を行っています。具体的な事例もご紹介可能ですので、ぜひご相談ください。